熊本県の西南端、新鮮な海の幸やマリンレジャーで知られる天草は、遠くヨーロッパから伝わった南蛮文化が栄えた土地でもあります。宣教師養成機関「コレジヨ」の設置や、金属活字印刷機によるローマ字本の印刷などキリスト教文化は天草で大きく花開きました。「天草の﨑津集落」はユネスコの世界遺産暫定一覧表に登録されている『長崎の教会群とキリスト教関連遺産』の構成資産に選ばれ、2018年(平成28年)の登録を目指す、今注目のスポットなのです。
入江にひっそりとたたずむ「﨑津天主堂」は、天草市河浦町﨑津地区のシンボル。穏やかな羊角湾を望む美しい姿は「海の天主堂」とも呼ばれています。1888年(明治21年)建立の木造﨑津教会の老朽化に伴い、現在の建物は1934年(昭和9年)にフランス人宣教師のハルブ神父のときに建てられたもの。高くそびえる尖塔と、パステルカラーが愛らしいステンドグラスに飾られた、ゴシック様式の教会です。アーチ天井に覆われた建物内部はとても珍しい畳敷きで、壁にはキリストの受難を描いた絵がずらり。正面奥の祭壇がある場所では、かつて「絵踏み」が行われていたと言われています。現在も毎週日曜日にはミサが行われ、厳しい弾圧を受けながら信仰を貫いた人々の暮らしを見守り続けています。
﨑津集落には、﨑津天主堂のほかにも﨑津諏訪神社や木造﨑津教会跡など、キリスト教の伝来から繁栄、迫害、潜伏、そして復活へと信仰の変遷を示す資産があります。また漁船が係留されている船着場や、家々の間を抜ける細い路地「トウヤ」、海の上に張り出したテラス状の作業場「カケ」といった昔ながらの漁村風景が残る町並みは、国の重要文化的景観に選ばれていて、散策にお勧めです。
﨑津の人々の暮らしに触れるには『まち歩き&海上のマリア像クルージング』がおすすめ。漁村に佇むゴシック様式の﨑津教会や諏訪神社、そして海上のマリア像などの歴史的建造物をはじめ、そこに住む人々が織りなす、独特な空気は﨑津ならではのもの。﨑津教会や、国の重要文化的景観として選定されている「カケ」「トウヤ」などの名所を、﨑津弁が楽しいガイドさんと一緒に巡ります。「海上マリア像」を船でクルーズしたり観光客をあたたかく迎えてくれる猫たちと戯れたり、﨑津の風を感じてみませんか。
﨑津教会に近い岬に、海上に向かって佇むマリア像。ここを往き来する船人や漁人達に、海の道しるべ、こころの灯となるよう多くの人々の協力を得て建てられました。また、マリア像の向こう側に沈む夕陽がロマンティックな雰囲気を演出し、天草夕陽八景のひとつに数えられています。